-
◆経済指標の不発が好感される歪なマーケット
2019.03.04 -
こんにちは、株の学校 マナカブ.com講師の中山です。
先週末の米国市場はダウが+110ドルの26026ドル、S&P500指数は+19.2ポイントの2803でクローズとなりました。
為替相場でもドルが強含む動きとなり、ドル円は週末、一時112円をタッチする場面がみられるほどの上昇をみせました。
また米長期金利が上昇したこともドル買い需要を高めたものと考えられます。
これを受けて、週明け本日の日本株も上昇となり、日経平均株価は+219円高の21822円と週末の+217円高から2日連続200円を超える上げ幅で続伸する展開となりました。
今はこの上昇に安心感を持っていて良いと思いますが、気にかかることがあります。
◆経済指標の不発が好感される歪なマーケット
一般的な経済の観点から物を論ずれば、「景気が良くなれば株式市場にもプラスへ」これがどの経済論者も唱えることでしょう。
しかし今のマーケット、特に米国株や中国株はというと、「経済指標の悪化が株価を押し上げるチカラ」になっている側面が否めません。
週末も政府閉鎖の影響で発表が遅れていた価格変動の激しい食品とエネルギーを除く12月の個人消費支出(PCEコアデフレーター)が公表されました。
これはFRBが物価を測るために重要視している指標です。
12月の内容は前年同月比で1.9%の伸びとなり、FRBが物価目標に掲げている2.0%を下回っています。
またその後、2月のISM製造業景気指数が発表されましたが、事前予想55.5に対して結果は54.2と好不況の節目である50を上回ってはいるものの1月の56.6より悪化してしまいました。
(米国ISM製造業景気指数の推移)通常ならこれらが悪化すると株価が下落するというのがセオリーなのですがそうは問屋が卸してはいません。株価は先にも述べたように上昇する展開となりました。
その背景にあるのはまさに「FRBの強い金融政策の方針」です。
昨年までFRBは「粛々と利上げを進めていく」という方針を掲げてマーケットと対峙していました。
しかし、昨年10月に起こったダウ5000ドル下げ、日本株も24000円から19000円割れと5000円を超える下げ幅を記録したことで、特に米国民の大半が株式を金融資産としているところに逆資産効果が表れてくる懸念が生じました。
そのため今年に入り、この利上げ強硬姿勢から180度一転、利上げ停止方向へと舵を切る方針に変わりました。
これによって今年に入り、米国株は強い切り返しを見せ昨年の高値26951ドルにあと1000ドルも上昇すれば到達という水準まで値を戻してきたのです。
つまり、「経済指標に良いものが出てもFRBは利上げを当面しないだろうから株を買っても安心だ」、一方で「悪い経済指標が出れば更になおのこと利上げの蓋然性はよりなくなるだろうから、これも株価にとってはプラスにはたらいて来るだろう」というのが今般、米国株、市場関係者を取り巻くマインドとなっています。
言い換えるならば経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を凌駕するほどいまのFRBの金融政策は市場に対する影響度が増大してしまっているということです。
こうなってしまえば、経済指標の良し悪しではなく、FRBの政策の考え方次第でマーケットは上にも下にも動くということを示します。
当面、FRBの金融政策は引き締めから緩和の方向に話しがまとまっていますので、この政策の転換がない限りは株価は上がることを意味します。
◆利上げ停止をしていても、金利急騰を引き起こすリスク
そのときに気を付けなければならないのは再び米国の長期金利ということになってきます。
この動きが週末も起こっていました。
現在米長期金利は週末時点で2.76%程度となっています。
(S&P500指数と米長期金利の推移)昨年2月、そして10月に株価が大暴落を喫したことはまだ記憶に新しいところです。
実はこの株価大暴落のトリガーとなったのが、米朝金利の急騰でした。(青枠部分)
昨年はFRBも粛々と利上げを推し進めることを公言していましたので、強い経済指標が出る度に米長期金利は利上げを織り込んで上昇する展開となり、上図のようにこれが急騰した2月、10月に株価は下落へと転じました。
そして、再び足元ではこの長期金利が上昇傾向へと向かい出しているということです。
しかし、注目すべきは今回の長期金利が上昇へと向かい出した理由は、昨年の理由とは違う理由で上昇しているということです。
これは債券市場と株式市場の関係にあります。
株価が上昇していけば、安全資産としての債券投資への妙味は薄れ売られやすくなり、金利は上昇していきます。
まだ現時点では急騰と呼べるほどの上昇ではありませんが、FRBが利上げを先送りにするとなれば、債券よりも株式への投資妙味が増していくのは火を見るよりも明らかです。
よって、米債→株式への資金シフトが起これば起こるほど、債券は売られ金利は上昇する動きが強まっていきます。
特にファンド勢はダウやS&P500指数などインデックスをベンチマークとしているところが多く、これを上回るパフォーマンスを上げなければディーラーは明日からチャートではなく、求人サイトを閲覧することとなります。
インデックスが上がっている、そしてそれ以上のパフォーマンスを上げるためにはカネが流れるところに資金を移すというのが彼らのセオリーです。
株価が大きく上昇をしていけばメディアが食いついてきます。
「ダウが本日いくら上がった、日経がいくら上がった」、これを見聞した個人がその後、漸く株価が安定して上昇してきたということで安心して買いを入れてくるのです。
しかしそこはすでに高値圏、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と先人たちも言っているように、あれだけ苦しめられた昨年2月、10月の大暴落も、足元の上昇に欣喜雀躍した後に起こりました。
しかし足元の好調な上昇を目の当たりにしてしまうと簡単に過去の痛みを忘れてしまう、残念ながらそれが人間の性です。
これからのシナリオですが、FRBは利上げを先送りにする方針を市場に周知徹底させたことで、株価も上昇の一途をたどりやすくなり、米国民の資産効果も見えてくることから、再び経済指標は春にかけて改善の兆しを見せてくるものと思われます。
しかし経済指標が良くてもFRBは利上げを慎重にやる方向性を変えなければ素直に株価上昇の燃料となり、安全資産の債券からさらに株式への資金シフトが起こりやすくなるため長期金利が急騰。
これが金利急騰→株式への妙味減退→大暴落と、金利上昇の理由は違えど状況が重なり今度は再び暴落するという展開が起こっても何ら不思議ではありません。
利上げペースを緩めてもこんなところにも長期金利が急騰するリスクが存在していることに注目をしておくと良いと思います。
大事なのは今の相場がどの位置にあるのか(これから上がるのか、下がるのか)、そこで自分がどういうスタンスを取るべきなのか、これを考えることが大事です。
ためになったと思ったらクリックお願いします。
-
【執筆者(講師)情報】
中山まさかず
学生の頃より起業。2006年より株式投資を始める。
独自のテクニカル(チャート)とファンダメンタルズ(企業)分析による投資戦略、株式投資を行う上で必要なメンタルの保ち方などを情報発信し、これまで累計8000人以上の個人投資家へ向けてセミナーを開催。
2017年には著書も出版し、その後3回の重版。
資産運用の会社も経営する傍ら、スタートアップ企業への投融資も行う。