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◆日銀は緩和維持。YCCのフリーハンドを得ることに成功
2023.07.31 マーケットニュース -
いつもお世話になっております。マナカブ.com講師の中山です。
◆きのうの日米株価指数終値
日経平均株価 32,759.23 -131.93
TOPIX 2,290.61 -4.53
マザーズ 764.04 -7.92
NYダウ 35,459.29 +176.57
ナスダック総合 14,316.66 +266.55
S&P500指数 4,582.23 +44.82先週末の米国市場は金曜日に発表された物価指標でインフレの鈍化傾向
が示されたことで3指数揃って上昇となりました。週末にFRBが物価指標としている6月のPCE(個人消費支出)が公表されました
が、結果は前年同月比で3.0%の伸びとなり、5月の3.8%から低下。食品とエネルギーを除くコアPCEも4.1%と予想以上に低下し、こちらも
5月の4.6%から低下したことを受けて、インフレ鈍化が鮮明化となりました。FRBは7月に追加利上げ0.25%を実施し、年あと1回の利上げを標榜しながらも
データ次第としており、市場では約8割がた利上げ停止というコンセンサスと
なっています。個別銘柄では前日引け後に4-6月期決算を発表したインテルが売上、利益とも
に市場予想を上回ったことが好感され6.6%の上昇。中国の景気刺激策への期待から中国関連のアリババ、ピンドゥドゥ、バイドゥ
などもそろって5%前後の上昇。大型のハイテクでは好決算でアマゾン、メタプラットフォームズなどが買われる
動きとなっています。◆日銀は緩和維持。YCCのフリーハンドを得ることに成功
先週はFOMCに続き、日銀会合と中央銀行ウィークとなりましたが、何と言っても
やはり相場のかく乱要因になったのが日銀会合でした。(日本10年債利回りと債券価格推移・日足チャート)
日本の10年債利回りは会合発表後0.50%水準から0.57%まで一気に急上昇
となり、これだけを見ると金融引き締めへ移行か?と思うような動きと
なりました。改めて日銀の今回の会合で決定した政策と植田総裁の発言を踏まえて今回の
政策について解説していきたいと思います。今会合のポイント
*変動幅±0.5%を目処に柔軟化
*10年金利を1.0%で厳格に抑制
*0.5%~1.0%の間は機動的なオペで対応
*2023年度のCPIは+2.5%に上方修正(4月は+1.8%)
*2024年度のCPIは+1.9%に下方修正(4月は+1.9%)
*粘り強い緩和を継続
*運用の柔軟化により「金融緩和の持続性を高める」
ということで、長期金利の変動幅を±0.5%は継続するものの、
10年金利(長期金利)は前回の0.5%の上限を1.0%まで許容する
との修正となりました。それでは続いて、上記のポイントと日銀資料を踏まえて今後の金融政策を
考察したいと思います。(YCC運用の順軟化・日銀資料)
気になるところは資料右下の点です。
景気が上振れした場合と下振れした場合、今回の政策がどう影響してくるのか?
現状を起点として日銀の資料を考えていきましょう。
(現状)
「0.5%(名目金利)-1.16(将来の期待インフレ率)=-0.66%(現在の実質金利)」
現状はどうなっているかというと実質金利はマイナスの状態にあります。
実質金利がマイナスということは、預金金利以上に将来の物価の上昇率の方が
高いため、将来不安のある中、お金を使わないと損するということ*右下:経済・物価が上振れる場合
「実質金利は低下、市場機能等への影響を軽減」
0.5%(名目金利)‐2.16%(期待インフレ率1%up)=-1.66%
上限1.0%(名目金利)‐2.16%(期待インフレ率1%up)=-1.16%
上限1.0%(名目金利)‐2.66%(期待インフレ率1.5%up)=-1.66%
=実質金利低下(マイナス幅拡大)
つまり、名目金利(一般的に10年債利回り)は1.0%までで日銀が食い止める
一方で、物価上昇の方には一応際限がないため、1年後、2年後のお金の価値は
下がり、貯めるより使わない方が損してしまう状況が強まるそうなれば日銀は再度、長期金利の指値オペの上限を1.0%から1.50%などへ
引き上げると思われる(事実上のYCC撤廃=事実上の市場機能等への影響を軽減)ただし短期金利≒政策金利は現在の▲1%を維持することで緩和姿勢を継続
(おそらくこれが日銀の狙い、さんざん批判されるYCCを事実上の撤廃にしつつも
金融緩和は継続路線)*右下:経済・物価が下振れる場合
「長期金利(10年債利回り=名目金利)は低下」
0.25%(名目金利)-0.66(期待インフレ率▲0.5%down)=-0.41%
0.25%(名目金利)-0.16(期待インフレ率▲1%down)=0.09%
=経済成長に期待できない(≒消費が伸びない)ため物価が下振れ、長期金利も
自然と低下傾向そして実質金利は物価(期待インフレ率)の低下により高くなる(マイナス幅縮小)
そうなれば大量に国債を買って無理に金利を抑制させる必要もなく、YCCへの
批判も少なくなるため、当面金融緩和継続の道を日銀は選ぶと思われるまとめるとこうなります。
ただ上記をまとめてみたものの結局は「株価にとってどうなんだ?」
という疑問が多分にあると思います。一言で言えば、
「金融緩和は維持されており、株式市場にとってはプラス作用であることは
変わらない」ということです。今回の修正を「金融引き締めだ」とか、「引き締め傾向になりつつある方向性
を見せた」というような見方もできますが、欧米の中銀と日銀の政策スタンスの
大きな違いは「短期金利はいじっていない」という点です。(今回の決定会合の要旨)
金融緩和か引き締めかを決定づけるのは政策金利の変更であって、この
政策金利に大きく影響を受けるのは短期金利になります。今回の日銀会合結果をみても、短期金利はマイナス金利を継続していますし、
操作したのはYCCの長期金利部分の上限幅であり、ここをいじっている分には
緩和継続ということです。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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ません。また、当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切の責任を
負いません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断でなさるように
お願いいたします。
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【執筆者(講師)情報】
中山まさかず
学生の頃より起業。2006年より株式投資を始める。
独自のテクニカル(チャート)とファンダメンタルズ(企業)分析による投資戦略、株式投資を行う上で必要なメンタルの保ち方などを情報発信し、これまで累計8000人以上の個人投資家へ向けてセミナーを開催。
2017年には著書も出版し、その後3回の重版。
資産運用の会社も経営する傍ら、スタートアップ企業への投融資も行う。